建物を作るための建材や、部材などにもそれぞれ耐用年数があるように、建物にも耐用年数が必ずあります。大まかには、構造と用途によって変わってくるのですが、たとえば木造の住宅なら22年、鉄骨鉄筋コンクリート造の事務所なら、なんと50年となっています。しかし、耐用年数が過ぎても建っている建物はたくさんあります。
それでは耐用年数が過ぎれば、解体工事をしてきれいに取り壊さなければならないのでしょうか。それとも耐用年数が過ぎても、しっかりとメンテナンスをしていれば大丈夫なのでしょうか。
今回はビルの建替えにおいて、建物の耐用年数や建替えの必要性について見ていきます。
建物の耐用年数とは
建物の耐用年数とは、建物の資産価値がなくなるまでの年数のこと。一般的には法定耐用年数といいます。
建物や設備、機械などの固定資産は、長期にわたり使用するのが前提です。したがってこういったものの場合は購入時に一気に経費計上するのではなく、減価償却を用いて分割して計上します。その時に必要になるのが法定耐用年数となるわけです。したがって耐用年数が過ぎたからといって、直ちに解体が必要というわけではありません。
耐用年数を超えたビルは大丈夫なのか
耐用年数を超えたとしても、しっかりと修繕やメンテナンスをしていれば十分稼働できます。ちなみに日本最古の鉄筋コンクリート造のオフィスビルは横浜にある三井物産ビルです。1911年(明治44年)竣工、このビルは今も現役で活躍しています。
耐用年数を超えることのデメリット
確かに、耐用年数が過ぎても現役で稼働しているビルはたくさんあります。もちろん日々の維持管理としっかりとしたメンテナンスを施してはいるのですが、耐用年数を過ぎることにおいてのデメリットはあります。
デメリット1:メンテナンス費用がかかる
耐用年数を超えた建物であっても、即座に解体といった必要はありませんが、ある程度の年数が経過するとメンテナンス費用が高くなる可能性はあります。また、これまでの経過で適切な維持管理ができていたのかどうかも、ビルの寿命に大きく影響します。
デメリット2:銀行からの融資が受けにくい
ビルを購入する際には、特に注意が必要です。ビルの耐用年数は、銀行などの金融機関が融資を実行する際のひとつの指標です。耐用年数を超えたビルは、建物としての価値が下がる可能性があるので、融資に影響が出ることがあります。
また、条件をクリアし、購入ができたとしても減価償却期間が短くなります。
耐用年数を超えたビルの減価償却期間は、その耐用年数の20パーセントと定められています。
たとえば、2億円で購入したビルの耐用年数が50年の場合・・・
償却期間は50年からの20パーセントなので、この場合の償却期間は10年となります。
実際の減価償却期間は、建物の用途や構造などによって異なりますが、この例の場合は1年間に2000万円の減価償却をすることになります。
減価償却は、現金を減らすことなく費用を計上できる会計処理の方法なので、より多くの費用を計上できるという観点では、減価償却期間は長い方が有利だとされています。
デメリット3:リフォームができない可能性がある
建築基準法をはじめとする、法令や条例というものがあります。建物に関するものも多く、新築工事の際にだけ守るものではなく、リフォームの時にも適合されるものもあります。ビルを建築した時にはなかったものもあるでしょう。
耐用年数を超えたビルは現行の建築基準法を満たしていないものもたくさんあります。現行の法令に適合させるためには、多額の費用を費やして大規模修繕が必要になることもあり、希望通りのリフォームとはならない場合もあります。
ビルの耐用年数と寿命
会計上の寿命
法定耐用年数は、あくまでも法的な会計上の概念であって、直接建物の寿命といったわけではありません。したがって、直ちに改修しなければならないというわけではありませんが、寿命という観点から話すと、耐用年数は会計上の寿命といったものでしょう。
物理的な寿命
物理的な寿命とは、そのビルが建築した目的を供することが困難になる目安の年数のことです。老朽化が進み、いずれは使用が困難となります。物理的な寿命は、修繕やメンテナンス、日々の維持管理でその年数を伸ばすことは可能です。
経済的な寿命
経済的な寿命とは、賃貸物件として利用している場合などで、その利用価値がなくなる状態になるまでの期間です。テナントや賃貸物件として使用している場合、経年劣化と共に、古くなってしまったビルの利用価値はどんどん低下します。
また、近隣物件と比較して、設備も機能もさらには間取りなども古く、明らかに他の物件の方が新しいと、賃貸物件としての価値は下がります。
そういった内面的な要素と、外的要素からも価値の変動を受けますので、賃貸物件における競争力の目安として、経済的な寿命は重要な指標となっています。
ビル建て替えの必要性
さまざまな評価に影響が出てくる
法的な耐用年数を超えると、会計上や融資の評価に影響が出ます。
耐用年数が過ぎるまでは取得費用を毎年分割して経費計上することができますが、耐用年数が過ぎれば使えなくなります(中古で購入した際には短くはなりますが、使えます)。
コストが割高になる
メンテナンスコストがかかってしまいます。どうしても割高になってしまうメンテナンス費用を毎月、あるいは毎年かける必要が出てきます。
売却しづらくなる
耐用年数を超えると減価償却ができません。つまり不動産投資において節税の方法がひとつ減るということです。また、保有や運用のコストもかかってきてしまうため、売却の際に人気がなく、売り手が付かない可能性が出てきます。
賃貸需要が減少する
住宅の賃貸や店舗といったテナントの需要が下がり、ビルの経営が難しくなります。新しいと新しいだけ価値があるとされているので、古い賃貸物件は人気がないという現状です。
築年数は、賃貸希望者が物件を探す重要な要素のひとつです。テナントや事務所の場合は立地条件や人通りの多さで決まる場合もありますが、やはり、築年数が増えることにおいてのいいことというものはありません。
まとめ
耐用年数が過ぎたビルというのは、言い換えれば、立地もよく、人通りなどの条件もよく、今から建てるビルよりは、はるかにいい条件のところに建っている可能性があります。そういったものを最大限に生かした活用で運営していくのであれば、十分に価値はあるでしょう。反対に、今までのメンテナンスや修繕に力を注いでこなかったビルは、物理的な寿命も来ていて、かつ、人気のない薄暗いビルに成り下がってしまっていて、経済的な寿命も来ていることでしょう。そうなってしまったら、大規模修繕をして再起したとしても、はたして採算は合うのでしょうか。
残念ながらそうなってしまったら、物件としての価値はなくなり、適正価格で売却できなくなります。そこまで行ってしまうと、二束三文での売却か、あるいは取り壊してしまうかになってしまうでしょう。
日本の大型の建物における解体事情は、おおむねその土地に何かしらの価値があれば解体し、建てえをします。そのため、特に都心部ではまだその建物に価値があったとしても、建て替えた方に需要があれば建て替えるといった感じです。もちろん建物が崩壊寸前であれば、行政からの取り壊し命令などがあるでしょうが、そうでなければ何かしらの手を打って運営しているのが現状なのです。