ビルの建替え工事を考える…ビル建替え事例が少ない理由とは

未分類

老朽化したビルは、建て替えが必要か。答えは「はい」です。

日本は地震大国でもあります。一昔、いやそれ以上前の建物になると、耐震基準もさることながら、どんどん老朽化しているので、いろんな意味で見直さなければならない点があります。

特に築30年を超えてくると、修繕の回数も増えていき、建替えも視野に入れていかなければならなくなり、健全なテナントの退去計画もままならなくなってきます。何よりも、老朽化したビルに入ってくれるテナントも、ほかにもっといい条件のテナントがあれば引っ越しをしてしまうため、家賃収入も減り、経済的にも打撃を受けてしまいます。

しかし、建替えを実施するとなると、莫大なお金がかかることから、そう簡単には実施に踏み込めないというのが現状です。

では、解体工事に莫大なお金がかかるから解体をしないのでしょうか。そういったビルの問題を抱えながら、どうして建替えの事例は少ないのかを探っていきます。

ビルの定義

ビルはbuildingといい、日本語では建物という意味です。日本でいうビルのしっかりとした定義はありませんが、木造やそれに準ずる構造物ではない、ある程度の規模、住宅専用ではない、といったところでしょうか。

ただ、建物によってはビルや高層ビル、超高層ビルといったような使い方をしています。

一方、建築基準法では、高さ60メートルを超える建築物はそれ以下のものと異なる基準を設定しているので、高さ60メートルがひとつの目安となります。

日本の高層ビル

1964年の東京オリンピックに合わせて作られたホテルニューオータニは、地上17階73メートルという高さを持つ高層ホテルです。国内には高さ100メートルを超えるような超高層ビルは700以上ありますが、実はそれだけしかないのです。神奈川県にある横浜ランドマークタワーや大阪府にあるあべのハルカスなど、驚くほど高いビルも次々と建てられてはいますが、その反面1970年から1980年代に建てられた高層ビルや高層ホテルは、老朽化や陳腐化が進み、解体工事を迎えようとしています。

建物の寿命には3つの意味合いがありますが、その中の建物自体の寿命は日々の維持管理やメンテナンスをしていれば延命はできます、ましてや鉄筋コンクリートの寿命ともなると100年を超えるといわれています。しかし、日本では耐震基準が頻繁に変更され、より厳しくなることから、古いビルになると耐震強度不足となり、建て替えが必要となることはよくあります。

高層ビルの解体工事

近年解体の技術は向上し、工法などは大手のゼネコンでこぞって発表し、施工も実施しています。以前は高層ビルの解体というと、建物の内外にタワークレーンという資材などを楊重するものを設置し、それで重機や足場材などを高所に運び、上から下へと解体をしていく方法が主流でした。

しかし、粉じんや騒音、廃棄物の落下などの周囲に及ぼす危険や効率を上げることを考えて、工法もかなり変わってきています。

地上解体

超大型の解体用の重機を設置し、地上から上に向かってロングアームと呼ばれるものを伸ばし、解体する方法です。地上21階、高さ65メートルまでに対応できる、非常に長いアームのものも存在します。

しかし、重機のオペレーターの技術に頼ってしまう点と、コンクリートを挟んで破砕するので、コンクリートのガラや粉じんの飛散などの危険も多い工法となります。

階上解体

高層ビルの屋上にタワークレーンと呼ばれる大型のクレーンを設置し、それらで重機を楊重し高所へ運び、上から下へと解体を進めていく技法です。上の階のコンクリートを破砕し積み上げてスロープを作り、重機は下の階へ移動し、また破砕をしていきます。そうして、一階ごとに解体を進めていく方法です。

こちらはスロープが崩れ、重機が滑落してしまう危険性や、粉じんの飛散が大きいことがデメリットです。

上部閉鎖式解体

建物の最上部から躯体を防音シートなどで養生し、閉鎖。その中で解体をします。そのシートに覆われている階の解体が終われば、下の階へと移動。新築を逆再生するかのような上から下への解体方法です。

大成建設が開発した「テコレップシステム」や竹中工務店の「竹中ハットダウン」、西松建設の「MOVE HAT」などがこれに当たります。解体作業をする部分がすっぽりと覆われているため、騒音や粉じんの飛散を最小限に抑え、雨も防げるため、悪天候時でも作業を中止するといったことがなくなります。

だるま落とし式解体

最下部の柱を切断し、ジャッキを設置し、上部分を支えながら1階ごとに解体。

また柱を切断し解体。これを繰り返すことによって建物の下からなくなっていく様を、だるま落としになぞらえてこう呼んでいます。

鹿島建設の「カットアンドダウン工法」がこれにあたります。地上部分での作業がメインになるため、粉じんの飛散や騒音を抑制できるうえ、こちらも最後まで屋根部分が残っているので、雨天でも作業を中止しなくてもよいといった利点があります。

欧米と日本の建築物の価値観の違い

欧州では、建物相応の価値で売買をすることができます。それは欧米人が古いものに抵抗感がなく、むしろ好んでいるためだといわれています。

歴史的な建造物も多く、イギリスをはじめとする欧米諸国の建物は街並みの美しさを形成しており、既存の建物を資源として捉え、これからも使用するために、修繕や新たな建物空間に生まれ変わらせるリノベーションが当たり前のように繰り返し行われています。ヨーロッパではマイホームを親子3代で買うなどは珍しくありません。

一方、日本ではどうでしょう。新しい建物を好み、古い建物は売買価格が下がり、年月を経過するごとに建物の価値が減ってしまうのです。

これからのビルの経営

建物は、経年劣化によるダメージで日々劣化していくものです。古い建物を取り壊し、新しい建物を建て、バリューアップをするのが最善の方法と考えられ、今までは建物の修繕や維持、それらをしていくためのメンテナンスといったものに対して、オーナーの意識がやや不足していて、スクラップアンドビルドにこそ価値があるといった思想に傾きすぎているという傾向にあります。

経済的に成長をしていくためだけの資本主義的な思想での大量消費や、大量生産だけが正しいとされる開発途上の時代から、昔の日本にあったような建造物の景観の文化価値も大切にしながら、経済性も成立させるという時代へ変わってきています。

築年数からだけで判断し、簡単に評価してしまうのではなく、運営していくためのさまざまな選択肢を検討し、築古ビルを修繕しながら維持し、建物の資産価値を落とさずに行うビル経営を改めて考え直す時代に入ったのではないでしょうか。

おわりに

関東大震災の教訓から東京では100尺規制というものがあり、高さ31メートルまでの建物しか建てられなかったという背景がありました。しかし、1962年に建築基準法が改正され、高さ31メートル規制が撤廃されることとなり、それを皮切りに高層ビルの建築が始まりました。

1964年ホテルニューオータニ(高さ73メートル)や1969年神戸の貿易センタービル(高さ109メートル)、その後も続々と建設が続き今日に至っています。日本における高層ビルの歴史から言ってもまだ60年弱で、法定耐用年数から見た時には超えてはいますが、維持管理やメンテナンスをしっかりしていれば物理的な寿命も、経済的な寿命もまだまだ現役と考えられるビルは多数あると考えられます。

タイトルとURLをコピーしました