ビルの解体時期を考える時に、浮かんでくるのが国税庁の法定耐用年数です。こちらは構造や用途によっても変わってはきますが、しっかりと定められています。しかし、これを超えたからといって、直ちに解体といったものではありません。むしろ会計上・金融上の関わりの要素としての方が大きいのです。法定耐用年数を超える建物に対しては、銀行からの融資が難しくなる傾向があります。そのため、大掛かりな修繕は難しくなるでしょう。
ビルに限らず建物というものは、日々の維持管理とメンテナンス、修繕などによって建物自体の寿命を伸ばすことは可能ですが、一方で、年々メンテナンス費用もかさんでしまうことから、法定耐用年数が解体することに対しての、ひとつの目安になるのは間違いないでしょう。しかし、耐用年数内であっても、ビルの老朽化が目立つようなら解体のタイミングとも取れるでしょう。
今回はビルの建替えにおける工事の事例を見ていきます。
ビルの解体方法
ビルの解体は一般的な一軒家と違い、高い建物なので粉じんや騒音といったものが周囲に影響しやすく、足場を組んで防塵、防音の対策をしても100パーセントの防止は難しいといった特徴があります。
そのため、いくつかの解体の施工方法があり、各建設会社は打ち合わせを重ねて、周囲環境に合わせた方法を選択します。解体の施工方法ですが、大きく分けて5つあります。ひとつずつ説明していきます。
ブロック解体
ブロック解体とは、タワークレーンをビルの最上階に設置し、ビルをブロックごとに解体して、そのクレーンで解体した物を地上に下ろす工法です。ビル解体のスタンダードともいえる方法として利用されています。
この解体方法のメリットは、周囲への騒音の少なさや、万が一地震が起きても安全性を担保できるところです。また、複雑な工法や重機を使用するものではないので工事期間も短く、汎用性が高いので、幅広くビルの解体に対応できる方法として利用されています。西松建設の「MOVE HAT」がこちらにあたります。
階上解体
階上解体とは、高層ビルや、ビルとビルが密集しているところなどに適している解体方法です。
大型クレーンで、解体用の重機を屋上に持ち上げ、上から下へ向かって解体していく手法です。ブロック解体に続き、こちらもメジャーな施工方法です。上の階のコンクリート壁などを解体用の重機などで破砕し、コンクリートガラを敷均してスロープを作り、重機は下の階へ移動し、また破砕をしていきます。そうして、一階ごとに解体を進めていく方法です。
こちらはスロープが崩れ、重機が滑落してしまう危険性や、壁の崩壊、床が抜け落ちるといったことがデメリットとして挙げられます。もう一つの懸念は大型の重機で解体をしていくので、粉じんの飛散と騒音が大きいことが挙げられます。
地上解体
地上解体とは、地上から届く大型の重機を用いて行う解体方法です。ハイリフトと呼ばれる大型の重機を地上に配備し、その重機のアームを伸ばして上から解体していきます。地上21階、高さ65メートルまでに対応できる、非常に長いアームのものも存在します。しかし、重機のオペレーターの技術に頼ってしまう点と、建物の壁の崩落や、コンクリートを挟んで破砕するので、コンクリートのガラや粉じんの飛散などの危険も多い工法となります。
上部閉鎖式解体
上部閉鎖式解体とは、高層ビルの解体に適している方法として用いられます。上部閉鎖式解体は、ビルの上部に移動ができる閉鎖空間を作り、その内部で天井クレーンなどを設置し、フロアごとに解体作業が行われます。解体工事は防音や防塵の壁に仕切られた中で行うため、周囲への環境にも配慮ができ、粉じん、騒音、飛来物のリスクの軽減が期待されます。
作業側としても雨などの天候にも左右されず行えることから、大手のゼネコンがこぞって開発しており、実施例はまだ少ないですが、今後、100メートルを超える都心部の解体工法として普及する可能性があります。ちなみに大成建設が開発した「テコレップシステム」や竹中工務店の「竹中ハットダウン」などがこれに当たります。
だるま落とし式解体
解体する建物の地上付近の柱を切断し、ジャッキを設けて躯体自重を支持し、ジャッキダウンと柱切断を繰り返して、まるでだるま落としかのようにビルを下から解体する工法です。
環境保全及び工期短縮効果は大きいとされています。現段階では超高層ビルの解体への対応はしていませんが、水平力の処理対策や更なるコストダウンが進み、100mを超える高層ビル解体へ普及することが望まれています。鹿島建設の「カットアンドダウン工法」や、竹中工務店の「竹中グリップダウン」がこれにあたります。従来のビルの上部から解体する方法ではなく、地上階から解体をしていくので、内装の解体材もそのフロアに積み置きし、そのフロアの解体時に地上から搬出できるといった利点もあります。そして、主には地上階での作業となるので、周囲への騒音や粉じんの影響は低減されます。
解体事例
グロック解体
西松建設「MOVE HAT」
2000年1月着手 旧第22興和ビル(地上19階 高さ74.8メートル)
こちらは首都高速道路に面した立地のため、工事で出る粉じんや万が一の飛来物での二次災害を避けることが最優先課題とされたため、この方法が採用されました。
タワークレーンによるブロック解体
清水建設「シミズ・リバース・コンストラクション工法」
2009年 清水新本社建設プロジェクト 旧事務所ビル(地上14階 高さ60メートル)
「スライドユニット」と呼ばれる飛来防止シートを設置した足場を解体する上層階に設け、ビルの上層部から徐々に切断、地上で処理をするシステムです。
上部閉鎖式解体
竹中工務店「竹中ハットダウン工法」
2011年 旧ホテルプラザ(地上23階 高さ88メートル)
大成建設のテコレップシステムと同様で、解体するビルの上部に「ハット」と呼ばれるものを設け、各階の解体と共に順次ハットを降下させていく方法です。躯体の解体は、ハットの中でカッターやワイヤーソーなどでブロック単位に切断、ハットの内部に設置してある天井クレーンにて降ろすため、粉じんや騒音の拡散や飛来落下のリスクの軽減ができます。
大成建設「テコレップシステム」
旧グランドプリンスホテル赤坂(地上39階 高さ138.9メートル)
これほどの高さのビルの解体工事は、過去の日本には実績がなく、しかも変則的な建物形状であるため、工事の安全性を確保する必要がありました。また、建物の立地条件から、解体工事中の近隣環境への配慮も最重要課題だったため、本工法が採用された。通称赤プリ、テレビやニュースで取り上げられ、有名となった。
だるま落とし式解体
鹿島建設「鹿島カットアンドダウン工法」
鹿島旧本社ビル第一棟(地上17階 高さ65.4メートル)、第二棟(地上20階 高さ75.3メートル)
まとめ
日本における、高層ビル建築の幕開けを飾った都心部のビル群が、いよいよ解体時期を迎えようとしている中、それに移り変わるようにして新しい街造りが開始されています。
都心部の密集地に建っている中高層のビルの解体における工法の更なる効率化を目指し、かつ、安全で環境に配慮した解体技術をして普及されることが今後の課題となっています。また、超高強度のコンクリートの解体や、200メートル、300メートルを超える超高層の鉄骨造建造物の解体など、解体へのさらなる技術開発への取り組みも忘れてはいけません。引き続き、作業員の安全と環境、加えて、健全に解体工事を進めていけるようコストダウンも視野に入れ、考えなければならない時代に入ってきたのかもしれません。